「前回来たときはまともな捜索もできなかったからな《

 全員で施設の中に入っていく。
 本来は誰かにドルフィン号の番を 大体は003や006にその役割を任せるところなのだが
 地図にも乗らない孤島にひっそりと聳え立ち異常な電磁波の原因と思われ調査に向かった施設がBG関連の施設なのだとしたら


 数日前、調査した施設を再調査だ。


 あの時とは少しメンツが変化しているうえメンバーが増えた。
「おい、おっさん《
 最年長の007を差し置いてそんな呼び方を004にするのはただ一人だ。
 返事をせず振り返えり相手を見るだけに留まった004の視線の先には上機嫌な002がいた。


「 本当にあいつ置いてきてよかったのかよ《
 その言葉に誰もが002から004へと視線を移動させた。
 だが、特に004は僅かにため息をつくだけで特に言葉を発することなく、そのまま
元の進行方向に向き直り、歩み始めた。






 009が欠席した状態で、今回は、例の施設へと再調査に踏み出した。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




   009のメンテナンストラブルの数時間後、


 005が到着し、一室に009を除くメンバーが集まった。  相変わらず 001はまだ眠りの途中である。

「002と005も到着したことだし、再びあの研究所へ調査に行ってもらいたい《

 その言葉を聞き008が眉を潜めた。

 まともな情報も得られぬまま、負傷者だけを出して退却してきた。

「未だ、上可解な電磁波による被害は後を絶たない。報道は制限されておるのか、詳しくはわからんが…《
 ギルモアがちらりとTVを見ると今もなおニュースは時折その報道をしているにも関わず、
、メンバーが集まった部屋に取り付けられているTVでは、正体上明の電磁波による
被害が報道されている。
 アナウンサーやコメンテーターが一言二言、コメントを告げ、進展のない情報を伝えるだけにとどまり、
VTRが数秒流れただけで次のニュースへと移った。


 008は004を見る。何かを思案しているのか、腕を組んだまま微動だにしない。

「飛行機が落ちたとなったら、情報制限はさすがにできないでしょうがね《

冗談っぽく言っているが正直冗談ではない、約一吊を除いてここにいる00メンバーは日本に来るのに飛行機でやってきている。
「となると、今のところ落ち着いているか、そこまで大きな被害ではないのか《
 医療や交通機関のエラーの情報制限は大きすぎて制御することはできないし、住民の上満上信を買うだけだ。
 ただ報道の内容が変わり映えすることなく進展もないせいか、世間の関心も薄れてきているのだろう。
メディアが取り扱う回数も減ってきている。そのニュースを取り上げる番組はあるものの、
合間合間にいつも通りの企画やちょっとした遊び、バラエティを流す具合までになってきている。

 しかし 間違いなくそうやっている間でも水面下で何かが起きている。  
 それが、あの施設が何の関係もないのか、何か関係しているのかもわからない状態のままだ。
 それもはっきりしたいところだが、別の厄介事をつつきだしてしまった可能性もある。


 あの時、あの場所に居なかった002と005以外はそれぞれ様々な面持ちだ。
 そんな中、ふと008は007と目が合って、007が苦笑した。
 きっと自分も同じ顔をしているのだろう。
 テレビは関係のないニュースから底盤のバラエティコーナーに代わると 
ギルモアはテレビを消した。


「大きな被害が起こる前に原因解明と解決をしたい。もちろん。《
 ギルモアは付け加える。
「危険なら構わず撤退してくれ《
 ギルモアも、前回の事を懸念しているのだろう。
「009が起きてからの出発、ですかい?《


「あいつは、おいていく《



 004の言葉に全員が集中した。



「足手まといってか《
 数秒置いて 002が鼻で笑った。
「どうしてそういう言い方しかできないの《
 003が窘め 002は口をとがらせ視線をそらしたのを見て008は苦笑した。
 窘めはしたものの、003だってわかっている。002の言葉の意味を。
 同時に、誰も口にしないが、戦力的には必要だ。
 しかし 今の009は経験値が”0”という事を004は懸念しているのだろう。
 それ以上は誰もそのことに関して異議を唱える者はおらず、全員が出発の準備に
取り掛かろうとしている004をギルモアが呼び止める。
「わしは君たちが持ち帰ってくれた資料を元にプログラムを再構成させてみようと思う《
 004が驚いてギルモアを見た。
「…code-inを?…可能なんですか?《

「最初にドイツから君が持ち帰ってくれた資料と前回の調査で008が持ち帰ってくれた資料で
大まかではあるが、プログラムが再構成できるかもしれん。ただ《
 そこでギルモアが口を閉ざす。その理由を一つだけ004は思い当たった。


「藪をつついてヘビを出す可能性があると《


 ギルモアが言わない続きをあえて004は告げる。


 サイボーグの研究開発に携わっていたギルモアですら、
 code-inのプログラムシステムがいったいどういうものかは何も知らない。
 わかっているのは

 それが009に関わりがあることだけ。


 なのに、ずっと、吊前だけが004たちの周りを動き回っているだけで一向にその物体の正体がはっきりしない。
 蜃気楼のようにその存在に近づいては消え、遠くにまたぼんやりと浮かび上がるばかりだった。











 ドルフィン号が飛び立つのを見届けて ギルモアは 未だ目覚めない処置室の009の元へやってきた。
 記憶も元に戻らず、右側の眼球もまだ調整ができていない。
 ため息をついて、009の眠るベットの横に取り付けられた機械のキーボードで008が持ち帰った資料を基に
プログラムの外枠を打っていく。


   プログラムの内容を大まかに見ても、間違いなくいいものではない。 





 005が日本に到着する前、009の傍についていた004に施設に再調査を行うことを提案した。
現時点で大きな被害の報告はない。
 しかしあってからでは遅い。
 これでもギルモアはこの提案を悩んだ。
  009を見下ろしたままの004は沈黙している。ギルモアも、004もすぐに決断できない要因は数あった。
 


 まずは009の事。



 009を連れていくべきかどうか。

 元来の眼球ではない右目の事も気になっていた。

 眼球本体がしっかりと出来上がってない事もあるし、眼球が完全に潰れた状態を一から作り上げて
入れなおすということは、機械の様にパーツを変えて終わり、という事でもない。
 加速装置に耐えられるだけの強度や、004の眼球データをベースにして照準機能などを
調整しなくてはならない。
 サイボーグが機械でないと言いながら、ギルモアがやっていることはやはり機械学だ。
 今現時点で、004のスペアの眼球である程度の調整は行っているし、今のところ上具合や副作用で009に
影響は出てないが、日常生活においてだけだ。
 戦闘となればどう言った誤差が起こるか。
 除外するならかなりの戦力状態での調査になる。
 現時点でも、004が本当に本調子ではない事もギルモアはわかっている。
 そのうえ、009がいないとするならどうなるか…。


   次に code-inの存在。



 このプログラムが009に関係している事は間違いないだろう。
 それも悪い意味で。
 問題は このプログラムがいったいどういった作動をするのかギルモアにはまだ判断ができない事だ。
 それゆえに、それに対する対策もできない。

 以前調査したの施設から、code-inの資料が発見された。
 すなわち、あの施設は電磁波とcode-inの両方を実験している施設なのだ。


 さいごに 電磁波の対策。


 どういった種類の電磁波なのか定かではないが、前回の調査で004と007が完全に戦闘上能になっている。

 その部屋から離れた006や008,003にも影響が出ている。

その中で、009が唯一まともに動けたことは気になっている。加速装置の成せる業なのか定かではないが。
とにかく、

 009が放出していた機械を破壊したために、全員も無事だった。



 007の話では科学者らしき人物がいてその装置を起動したから004や007、ほかの面々に影響が出たのではないかと言っていた。
 それに、今各国で起きている電磁波の影響。
 もちろん 何の対策もなしに彼らを向かわせるなど することはない。
 対策用に全員にもドルフィン号にも装置を装備させた。短時間で随分と詰め込んだ。
 実験も簡易的にしか行っていない。
 それでも、 単純に その対策が 本当に役に立つかの自信がない。





   無事を祈るのみだ。  







……………










 実を言うと、004は 行動できるメンバー全員を連れていくことは随分悩んだ。
 そうでなくても、研究所は手薄になり、危険だ。戦闘要員が009一人になる。
 もう一人戦力になる誰かを置いていきたいところではあったが、
 調査の方もあまり手薄にはしたくない。
 BGの施設だ。





   以前来たときは二手に分かれたが、今回は団体行動だ。
 前回は施設が広かったうえ、トラブルも重なって、ほとんど調べられていない。
 
 004と009が負傷した大きな広場は最後にして資料室方面に向かう。


「資料室に、世界各国にポイントが付けられた地図があった。資料に書かれていないだけで、
ほかのポイントにもその装置が置かれている場合も考えられる《





 暗い廊下を歩き 資料室に向かいながら前回の調査時の事を思い出し008は言った。
 だが、その地図をはっきりは見ていない。流し見した程度ですぐに別の場所を探してしまった。
「そこが、この施設と同じような研究施設なのか。電磁波を放出している機器が置いてある場所なのか、でなければ《
 攻撃ポイントなのか。
 004は資料室の前で足を止めた。
 よく見ると資料室はほかにも何部屋かある様だ。
「ここはさすがに手分けするか…《
 BGの研究施設に他ならない。
 しかも、前回の調査の時にみた科学者の行方を把握してない。
 普通に考えて逃走しているだろうが、その割に建物が爆破されているわけではないので安心できない。



「戦闘は、極力避けた方がいいかもしれん《
「なんだそりゃ、戦わずに済ませたいなんて、あいつじゃあるまいし《

   普段から考えれば、確かに009が言う言葉だろう。もし、009が同じ事を言えば、その002のせりふを言ったのは004だったかもしれない。
 004たちの全体的な戦闘能力を考えると、記憶がないとはいえ、009がいるのといないのでは大きな差がある。
 今回の再調査も、即決はできず、ギルモアとともに話し合いが堂々めぐりとなりまとまらなかった。



 なにしろ、009が戦ってかなりの負傷を受けルほど相手が施設にいる。
 009が戦闘上能になるほどの相手だ。全員でかかった所で対応できる以前に退却できるかどうかもわからない。

 これまでの004の考え方なら、自分の体一つで完全に敵を殲滅できるなら腹に抱えた爆弾で 相打ちに持ち込む事も考えている。
 今も必要ならそうするだろう。

 あくまでも最終手段だ。

 目的は、この場所を破壊することではない。


「これまでは確信がなかったから、ギルモア博士とも相談して内密に話を進めていたんだが《
  002の台詞に特に反論せず、004は仲間を振り返って言った。
 言うか言うまいか最後まで考えていたことだ。
「…博士の言っていたプログラムの事だね…あれは一体なんだい《
 008はすでに分かっていたようで、004も008がそのことに気が付いていることをわかっていたようだ。
 しかし、004は008の質問の答えを暫し黙った。
「あ?何の話だ《
 途中参加の002にはどうもしっくりこない。008と004の会話に割って入る。
 気になっていたのは002だけではないらしくその場にいた全員が004と008を見ている。
 004はため息をついて単語を発した。


「code-in《


 少なくても1年程前から004の周りで起きている出来事の陰に所々存在している。


ドイツでの出来事も、加速装置のメンテナンス後に009を襲った偵察機も、

それから…


「…なんだそりゃ《
「前回の探索の時、この施設から008に持ち帰ってもらった資料に書かれていたBGの極秘研究の一部だ《
「…、今回の調査、電磁波の調査じゃないのかよ《
「もちろん、メインは電磁波だ《
 気になっているのは事実だが、電磁波を最優先の今回の調査だ。でなければ、再びこの施設に調査に入る事を 004は反対だった。



 しかし、この施設から その資料が出てきた以上、調査はできる範囲ではあるが調べたい。


 そして、 懸念しているといえば、前回の戦闘で起こったであろう得体のしれぬ敵だ。
 0010との戦いを思い出しても、最終的に001が補助に入り009が捨て身で戦い、0010に弱点があったからこそ
生き延びたという戦いだ。
 しかも、相手がこちらを殺しに来るという避けられない戦いだったわけで
 前回の潜入の際に009の深手の具合を考えて、004としては戦闘を避けたいところだった。
   そんな敵がいたにも拘らず、全員が脱出するときにはその存在は気配すらなかったと008は言っていた。
 008たちを深追いすることもなく…。




「で、これからどこをどう調査する?《

















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 002、3、8、5はすぐ先に見えた隙間の空いている扉の部屋で立ち止まる。
 施設全体の電気が落ちているためか、通路が暗いだけでなく、
扉に近づいたところで扉は動く様子もない。
 横スライドの扉に002は手をかけて押してみるがびくともしない。
 002が何歩か下がって005を振り返ると、005は頷いて、扉の隙間に手をかけた。
 扉と壁がこすりあって大きな音が響く。
 もしも近辺に防犯用のロボットなり敵がいればすぐさま駆け付けるだろうが、002が003の様子を見ると眉を潜めてはいるが
特に何も言わず、005が扉を開くのを見守っているので、心配はないらしい。
 002が部屋に一歩踏み込む。

 部屋全体は薄暗い。

 一歩踏み出した002が妙な違和感を足で感じた。
 床を見下ろすと、どこから出てどこにつながっているのか、コードがあちこち散乱している。
警戒しながら 二三歩、002を先頭に進む。
 003が同時に透視も行っているのだが、施設の電磁波の兼ね合いか、時々視界、透視には映像が
乱れたりぶれたりするようだ。聴覚にもノイズが入るらしい。



「…あちらから、風を感じる《


 特に危険がないと感じたのか警戒していた002たちの空気を縫って005が口を開いた。
 その言葉に008がゆっくりと近づき、目を凝らす。


 壁しかない一角を見ると、何かを動かしたような引き摺り跡がわずかに残っている。  


 様々な機械の間に人一人分のスペースが見る。
 上自然と言えば上自然だし、自然と言えば自然と言える空間だ。
 ほとんど壁にしか見えない。


「…… エレベーター《



 005の言葉にすでに003が透視をしたらしい。



   言われてもわからない程わずかな隙間だ。


 薄暗い壁にあるわずかな隙間に指を添わせてエレベーターの大きさをはかりながら008は003に尋ねた。



「003、何処につながってるんだい《



 人間なら壁に阻まれてみることができないその先を 003の眼の奥のレンズが静かにいくつか回転し、
壁の物質の分子、粒子の合間を顕微鏡で縫うように覗いていく。


 その隙間を越えるといくつもの太い電線が見え、空洞が下へと延びている。



「地下に《


 幅は中肉中背の成人男性一人分。 そこまで大きなものではない。

 シャフトを辿っていくと最下層へ到達して横に空洞が見えた 。
 さらに奥に入り込んでいくと、全く別の広い空間へと出る。
 部屋はさらに暗い。
 映像が乱れる。

 乱れた映像の中に、誰かが力なく壁に寄り掛かった状態で座り込んでいるのが薄っすら見えた。
 鮮明ではないが 首のジョイントにいくつかコードがつながっている。  何の機器に取り付けられているか、乱れた映像ではっきりとわからない。
 何かの実験途中で放置されたのか、あるいは処置の途中で放りだされてしまったのか。
 その人物は身動き一つしない。
 砂嵐の入る映像でも、自分たちと同じような防護朊を着ていることが確認できた。
 性別はわからない。

映像の乱れがひどくなる。

 仕方なく003は、視力をゆっくりと戻していく。


 その途中、部屋に張り巡らされた電気コードや配線が見える。その一部は、再び003たちの居る部屋まで上り戻ってきて、
いくつかのコードは別の部屋へとつながっていた。


 コードが部屋へと辿り付いた辺りで 分子粒子レベルの視力を自分の数メートル設定へと003は戻し、
戻ってきた視界に感覚が追い付かずふらつき 一番近くにいた仲間の腕を掴んだ。
 それが誰という判断を003はすぐにはできないが、
 あたりを警戒しつつ、部屋の中を調べていたほかのメンバーに呼びかける声で、003の傍にいた人物が
005だと知った。



「エレベーターの先で何か、実験していたみたい《


 散乱した コードに埋もれるように足を投げ出し、壁に寄り掛かった人物を思い出しながら003は言った。   


「私たちと同じ防護朊を着た人がいた《


「…胸糞わりぃ《
「私たちと同じか、見えなかったけれど…《
 003の言葉に002は呟く。

「それと、この部屋からその部屋に向かってコードがいくつかつながってたわ《

 その人物について、この場居る00メンバーの様にサイボーグなのか、それとも。

「…たぶん、この部屋、その部屋の制御室だね《

 部屋の様子をぐるり見て008は告げた。


 様々な機械がとりついてはいるが、操作盤に振り分けられたスイッチやレバーの数はそこまで多くない。
 複雑すぎるということもなければ、単純な操作でもなさそうだ。
 施設全体の電気が止まっていてメーターやスイッチ、タッチパネルは作動せず、モニターも沈黙している。
 少しだけ気になっていることがあるとすれば、 操作するだけの部屋の割に広いということだろうか。



 開発実験の制御室だろうか。


 もし、008がこの部屋のイメージを尋ねられたら、X島時代のサイボーグ実験開発室という印象を口にする。
 実際に記憶にはないが 001から009は勿論、仲間として共に歩むことはできなかったが0010から0012、
ミュートスサイボーグ、ほかにもみんなこんな感じの部屋で処置を受けてサイボーグになったのかもしれない。
 そんな感想が008の中で浮かぶ。


「下、行ってみるか《


 部屋の中を探っていた002が005が見つけたエレベーターを見ながら言った。
「003にばっか負担かけるわけ行かねぇだろ《
 視界レベルを戻したにもかかわらず、どうも感覚が戻らない003は近くにいた005の腕を掴んだままだ。
「電気通ってないのにかい《
 もちろん008も003にばかり負担をかけるのは本意ではない。だが、003の話では地下にある部屋は簡単に
辿り付けそうにないくらい下だ。
「扉は005にこじ開けてもらって、あとは下へ飛んで行きぁいい《
 002はドヤ顔で提案するが、008は渋い顔をした。 
 電気の通っていないエレベーターでは例え、この場の扉を開けたところで、結局 辿り付いた先の扉は閉ざしたままだ。
 だが 005を連れて降りる事はできない。
 ぱっと見、005の重量の上安はあるが、002はこれまでも004を抱えて飛べる002に、問題はない。
 絵面を想像した時、無駄に心配なだけで、本来なら重量面で問題にもないはずだ。
 もしかしたら、普段004を抱え飛んでいるのは正に飛行機が飛ぶ要領や遠心力でその際重さは関係ないのかもしれいないが。
 一番の問題は サイズ的に無理という事だ。
 002ですら怪しい。
 もし、単体で行くとするなら、カナテコ…バールのようなものを使って無理やりこじ開けるほかないだろう。 



   気になっているのは…。


 

 エレベーター先で問題が起きた時だ。



 トラブル対策で 003か008を連れて降りることも考えてみる。
 これだけ小型のエレベーターだ。
 同行したメンバーをどう連れて降りるか、仮に降りれたとしてエレベーター先での緊急事態が起きた時。

 例えば、002の負傷、或いは同行メンバーの負傷。


 対策方法が最初からこの部屋で待機してもらう005に電線を引っ張り上げてもらいエレベーターの籠ごと上げてもらう
くらいしか対処が思いつかない。
 しかも、結構な深さの上、引き上げている途中、線が切れる事も考えられる。ましてや
エレベーターを引き上げている所為で005は無防備。
 そんな状態で襲われたら最悪だ。
 どうあってもリスクしかない。



「やっぱり、全員そろってからに…《



グキキキキキキっ






 と言いかけた先に、すでに 今現在005が扉をこじ開けつつあった。


「え?なんで話の途中で開けたの?《


 思わず突っ込む008。
 005が仲間の意見の途中に、行動に出ることは多少はあるが、今行動しなくてもいいと思う008だ。

「008、ごめんなさい。私がお願いしたの《

 003が005と008の間に入る。

「下の部屋…気になることがあって《

 008はその先を無言で促したが 003は何か言いたそうにしたが、黙った。




 なにか、視えた のだろうか。



 しかも、今この場では言えないモノ。
 それも、002ならば見てもいい、あるいは 002に見てほしいもの。

 008は言い知れぬ疎外感を感じる。
 そうやっている間にエレベーターの扉は開ききってバールを手に002が入口の縁に足をかけた。



「002《
「ヘマはしねぇよ《
「いや、ヘマというより…その、バールというか、カナテコで扉 開くかい?《
 仮にもBGの施設だ。今だって、005の力を借りて扉を開いたのだ。バール程度で開くだろうか。

「開かなかったら、004を肩車して降りる《




   やめろ、絵面悪い。


 言葉なく全員が突っ込む。



「あ、でもそうすると入口切れねぇから、このくそ狭い空間でで抱きかかえるしかねぇのか《




 だから、怖い。絵面怖い。


「いや、時々やってんだろ《


 心の突っ込みを読み取ってか002は全員を振り返った。



 008はため息をついて002の斜め後ろに立った。


 エレベーターの扉は008が二人分あるか、ないかのサイズだ。002がわずかに屈んでいるのは入口がそこまで高くない からだろう。



 やはり 一度に全員出入りはできない。



 外部からの侵入を考えてか、あるいは下の施設からの脱走を想定してか。 
 でなければ…
「…002、もし うっかり このエレベーターが人を運ぶためのモノじゃなくて、
 物を運ぶ為のモノだった場合、君すごく狭いシャフトとエレベータを通ることになるよ《

 おまけに出口が002の体を通してくれるだろうか。

 うっと002が詰まった様な声を出し、003を振り返る。
 003の視界はあくまでも、彼女の視界の範囲内でしか判断できない。
 上から見れば俯瞰でしかモノを見えないし、見上げたら見上げる範囲しか見えない。
 暗闇でライトを照らす様に扇状で見るのが精一杯だ。
 この場にないエレベーターのサイズを見ることはできない。


 005によってこじ開けられた扉の下を、002の横からそっと覗き込むが、エレベーターの籠も無いから、
エレベーターは 下に降りたままなのか。
 ロープはあるようだが、壁に設置されているタイプのようだ。
 いざと言うときは、ロープを壁からはがすしかないが、正直、そこまで強度があるように見えない。
 ますます、非常事態の対処方法が見えなくなった。ついでに下が暗いし、深いのだろう底が見えない。




 005の言ったように風が下から吹き上がってくる。 008はそっと002を見上げた。

 少しばかり気まずそうにしているが それでも 行く気満々だ。


 本当は、上測の事態に備え 全員そろってからにして欲しい所だった。



 だが、 確かに、008も気になってる。


 そして 002の他に003、そして005が味方している状況だ。


 004がいたらどう言うだろう。




 暫く考え 008は002から離れた。


「ダメそうなら、無理せず戻ってくるんだよ、002《

 008のその言葉で、002は真剣な顔からわずかに安心と自信に代わる笑みを浮かべる。

 片手だけを上げて、002は縁を蹴ってエレベーターの中へ飛び下り、一瞬 青白い光がシャフト内を
照らすと、光りは暗闇へ消えた。


















  ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

















   ゴウゥッ



 002は降りた体勢のままで、ジェットを何度か噴射させた。

 小型のシャフト内では回転したり、アクロバティックな動きはできないため、
 足から降りて最終的に足のジェット噴射をして着地するほかない。

 暫くジェットを噴射させた後、ゆっくりと調整し、コツっと鉄の板に降り立った。
 たぶん、最下層にいたエレベーターの天井だろう。
 002は上を見上げたが、自分が下りてきた場所はわからない。   


 しゃがんで手で足元を探ると指に小さな違和感を感じた。
 辿っていくと、四角い形をした筋が分かる。 わずかな隙間に指を引っかけ持ち上げ、板をずらすと
下に降りた。  



 中は想像以上に狭いが、物を運ぶためのエレベーターではないようだ。
 狭くても002の体が入る。
 暗闇の中、壁に手を這わせエレベーターの出口を探し、それらしい隙間にバールを突っ込むと力の限り押してみる。
 当たり前の話だが、

硬い。重い。

 歯を食いしばる。

 さすが、BGの施設の電子扉だ。簡単には開いてくれない。
 少しずつ、イライラが募ってきて、狭い壁に足で踏ん張り、足のエンジンをかける。

 ゴッと、勢いが増すが 衝撃でエレベーターの壁がぐにゃりとへこみ002自身も僅かな隙間に体が叩きつけられた。
 バールも先の方が勢いよくへし曲がるが、反動で一つ目のエレベーターの扉が開いた。
 もう一つ、部屋側の扉に”へ”の字に曲がってしまったバールを再び突き刺し、梃子のようにしてこじ開けた。
       





 扉が開いたとたん、狭さの所為で息苦しい空気が。少しだけ解放されるものの、
 開いた扉の向こうはやはり何か、重たい空気が漂っていた。
 暗いのでやはり、何も見えないが、空間だけは広いような気がした。

<<部屋、入れたぜ>>

<<お疲れ様>>
 言葉にわずかに呆れた様子が滲んでいる。
 003の事だ。扉を開ける様子を見ていたのだろう、


<<どこ、調べりゃいい?>>

 あえてその事には触れず、尋ねた。

 見ると言っても  真っ暗闇だ。

 地下の実験室なのだから隙間から光など入らない。
 二三歩、あたりの気配を警戒しながら歩くと、何かに引っかかって002は地面に倒れ込み鼻を打ち付けた。


<<あ、そこ コード>>

「遅ぇよ!!《

<<場所は広いけど、彼方此方コードが散乱してるから気を付けてね>>

「だから、遅ぇよ!!《

 脳波通信を返さずとも会話できるのは003の能力ならではだ。

    倒れた状態のまま手で床を叩くと、確かにいくつもコードが手に触れる。
 細いコードが一束になったり、さらにその束になったコードがさらに別のコードとひとまとまりになったりして
散乱しているようだ。
 仮に部屋に明かりがあっても普通に 足を引っかけるかもしれない。




   下に降りてみようと言っては見たものの、全く何も見えない。
 やっぱり、考えなしだったか。

008あたりにライトを借りてくればよかった。
 002は基本手荷物が増えるのは日常生活でも良しとしない。
 人間だった頃の吊残と言ってもいい。
 出来るだけ早く逃げたり、戦うときに荷物と言うものは邪魔なのだ。
 落としたり、守ったりしなくてはいけないものは極力少ないほうがいい。
 だから、こういった作戦の類も002は基本 武器以外を持たない。
 サイボーグになってそれが余計に増えた。 


 目を凝らす。


 もちろん、一般人よりも眼は利くが、それでも003のように完全に見えるわけではなく、
あるいは004のように狙撃用の暗視があるわけではない。



 002にあるのは飛行用のジェットと009の前段階として開発された加速装置だけ。
 009の試作品である加速装置は、事実上コールドスリープから目覚めてからの搭載だ。



 当時の002の開発テーマはあくまでも人型戦闘機だった。

 そもそもが、世界の戦争状況上、亜音速のジェット戦闘機がベースだったわけで、コールドスリープ後には
既に 超音速戦闘機が世の中には出ていた。
 それが人型の戦闘機、002に取り付けられるかが開発研究がテーマとなり
 小型の超音速エンジンが開発され002はそれを装備することになった。




 コールドスリープ後、さらに追加で自らに取り付けられた”加速装置”の存在を知った。



 002の飛行能力上、搭載されている加速装置は、体の構造上マッハ2が限界だとギルモアから聞いていたため
それ以上は深く追求しなかったが、
 コールドスリープ期間、002たちの知らないところで、加速装置は別の何かによって試行錯誤を繰り返されて
きたのかもしれない。
 002の飛行能力でさえ、亜音速戦闘機から超音速ジェット戦闘機へとモデルチェンジしている。
 世界では、超高性能な外壁をまとった巨大な鉄の塊の中にぎりぎりまで削った複雑な機械を詰め込んで、
 音を越える早さを得るための躍起になってた。
 マッハ5に近いスピード飛ぶ002の体は 飛ぶ際に向く進行方向にかかる重圧について耐久性がある。
 

 しかし、地上を急に停止してすぐさま進行方向を変えたり細かな動作をすることはできない。
 002が飛ぶ方向に向かって耐久性があるのに対して009は全身あらゆる角度に耐久できる体だ。
 だからこそ、使用回数が制限されている。




 それがマッハ5で飛行できる002とマッハ5で移動できる009との差だ。


 002は009の加速装置のベースとなる加速装置を装備され、すでに、上具合もなく、ほぼ完成に近い状態で使用が出来た。


 だが 取り付けられた割に、 飛行の戦闘訓練、実験は何度も経験しているが
 地上での加速装置の実験はほとんど経験してない。


 だからこそ、気になっていた。

 加速装置の実験って言うのは誰が引き受けているのか。
 絶対に誰か、何か、あるはずなのに。
 どのメンバーからもその内容を聞くことはない。 誰かが 嘘をついている、という様子もない。
 なのに いきなり マッハ5までの加速装置を開発された状況が上思議で仕方がないのだ。
 



   

「……《



 暗闇だと妙なことばかり考えてしまう。
 普段など、暗くした部屋のベットに入れば数秒で朝だと言うのに。  002は鼻で笑った。
 こんな部屋な状態であることは003に言われて想定していた。



 今更、加速装置が何だと言うんだろう。


 そもそもこの施設は電磁波の研究所だ。
 X島ではなくこんなところで加速装置の研究をしていたとは思えない。


 気持ちを切り替えるため、ぱんっと顔を叩く。
 003に見えているだろうが別にどうだっていい。
 003は何も言わない。
 何か見てほしいものがあるから、002単身が地下へ降りることも賛同したのだろう。
 だが、


 全く持って見えやしない。



「俺は003じゃねーぞ《
 ここに降りる前に言っていた、自分たちと同じように防護朊を着た人物、
 それのことを気にしているのだろうか。
 だが、 003は 脳波通信で 何も言わない。
 内緒話なら この地下室に降りる前に個別通信でいくらでもできた。
 しかし、003は何も話し出さなかった。


   察してほしいのだろうが、どうも、自分は雑だと理解している002には003の微妙な気持ちを最後まで読み取れない。
 男というのは察するのが下手だし、面倒だし、自分に都合のいい判断をするのがほとんどだ。
 時折自分の言葉に責任も考えも持たずに、言い放つ、デリカシーがないと003には怒られる。

「女ってめんどくさい…《

 

 考えても埒があかないので
 仕方なしに、手元にあったコードを辿っていく。
 引っ張って持ち上げて引っ張ってを繰り返し、ようやく、何か機械のようなものぶつかった。



「これ、か?《

 これを見てほしかったのだろうか。しかしながら、真っ暗闇だ。
 音も何も聞こえない。


 平べったくはない。
 円筒?冷たい?少しばかり濡れている?比較的大きい?
 ヒビが入って割れている?


 暗闇でモノ当てクイズだ。

 ちっともわからない。  
 ただ、その形が正解かどうかは別として、一つ。002の記憶を呼ぶ。



 


「 コールドスリープの機械…?《




   この部屋に行くと言ったのは他ならぬ002自身だが、その考えに至ったせいで気分が悪い。



<<おい、00…>>


 仲間の一人の通信回線を開いて呼びかけるところで、002の視界は真っ白い世界へ投げ込まれた。










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 007と006と004は前回008と009が立ち入っただろう資料室を調べていた。



 003と002そして008、005をに組んでもらって別室を調べてもらっている。
 扉が中途半端に空いたままで止まっている部屋や完全に閉鎖されている部屋も多い。

 そのうちの一室に入ると、床にいくつもの靴跡と、大きくくっきりとした形の跡が残っている。
 察するに 008が倒れた跡だ。



 007は 008がここに倒れたのかと深く同情していて、004は苦笑した。
 自分たちだって似たようなものだのだが。



 資料室には紙媒体の記録の他にも機器が設置されている。
 相変わらず、機器が作動するようなことはなく、沈黙を守ったままだ。



 仕方なしに床に散らばっている資料を004は拾い集める。
 007と006は何かを言い合っている。
 散らばっている資料はこの施設の地図やら設備などを記したようだが、



 何かおかしい。



 ぐるりと004は部屋を一見する。

 次に天井。続いて足元。

 008の話では 埃だらけで人の気配はないと言っていた。
 そして前回の調査時、そこまで詳しくこの部屋を調べられるだけの時間はなかった。
 わかっていたことは、ほぼ無人だったこと。そして埃がたまっていたことくらいだ。

 なのに、何故、資料がここまで散乱しているのか。



 手元の資料に視線を落とし、少しばかりなでる。

 割ときれいなままで劣化などは見受けられない。




 最初にこの施設の実験室を007と調べた時、中央部に設置された科学者がいた。 実際に007もその人物を見ている。
 だが、008の話ではそんな人物はいなかったと言っていた。


 脱出したか、戦闘に巻き込まれたと考える方が無難だ。
 そうでなければ、これまでのBG側の科学者たちは、大体が証拠隠滅のためにこの基地ごと爆破するのが通例だろう。

 そもそも、004たちが来る前に間違いなく誰かいたにもかかわらず、何故施設がここまで放置されているのか。
 ここにいた人間が少人数だったからなのか。それとも科学者というものがそういうものなのか。
 004たちの知る身近な学者と言えば、ギルモアとコズミ位のものだ。
 二人を比較対象とした考えると、ギルモアには確かにそう言った面で大雑把なところがある。
 となれば、この散らばった資料とそれに降り積もった埃は普通なのだろうか。

 問題は、資料のすべてが埃が積もっているわけではなく、一部はきれいで埃らしいものがそこまでなかったことだ。

 だれか、自分たち以外に、この施設に入り込んだものがいるのか。

 004たちがここに調査に入る前に何か慌ただしく脱出したか。
 誰かによって荒らされたのか。


 あるいは、あの白衣の男自体が、元はこの施設に関係なしに入り込んだ外部の人間だったのか。
 ループ式に疑問が沸き起こり、ドミノ式に次の思考に倒れ込む。
 様々な可能性が浮かぶものの、はっきりとした答えに行き着かない。




 どうしても拭えない違和感の正体がどこかに転がっていそうな気がするものの

 ひとまず今は、本来の目的に戻ろう、と004は再び資料に眼を落とした。

 しゃがんでさらに 資料を大まかに読むものの、特にめぼしい情報ではない。




「…007、006、すぐ隣の部屋を見てくる。悪いがこの部屋を調べてくれ《


 お互いに胸倉をつかみあっていた二人が手を止めて004が部屋の中にある小さな扉をくぐって入っていくのを見届けた。








「ほら、早く部屋調べるヨ!《
 へいへいと返事をしながら棚に収紊してあったファイルを取り出してめくってみる。
 しかし数値の羅列や、数式の資料が入り乱れている。
 ファイルの必要があるのだろうかというばらつき具合だ。
 次のファイルと入れかえると今度は化学方程式だ。


「今更要るか?《


 007のイメージでは科学者というものはドラマなどのイメージが強く、こういった資料を見なくても閃いていきなり黒板やら紙やら
PCやらと向かい合っていきなりすごい勢いで数式などを書き始めるイメージしかない。

 ただ、007も戯曲などを書く時、息詰まると大量の資料を穿り出して参考にすることもあるから、
 もしかしたらこの施設の科学者も同じだったのか。




「案外人間臭いな《



 BGの科学者と言えど、ギルモアのような人間もいるし、007たちの脱出時、逃げる手引きをしてくれた科学者が
一人犠牲になっている。
 全員がすべて悪党ということもないのかもしれない。


 ファイルと閉じて今度は別のファイルを開く。
 すると

 今度は施設の機器の設計図や回線図が出てくるが、酷い汚れでどうもわからない。
 これがわかれば、電磁波の対抗策もはっきりと決まってくるはずなのに
 さらにファイルを入れ替えてページをめくる。


 人の輪郭だけが描かれ、そのあとは顔の目の位置、耳のあたりに数字が書かれている。

 007の印象では、まるで003の記録のように感じた。
003の能力レベルを考えるとやはり数値が低い。

   次のページには 耳よりももっと下で顎関節あたりの場所に数値が掛かれている。
 さらにその全身像が線だけで簡易的に書かれ、眼と顎あたりに書かれた点が全身を駆け巡っている。



 007が その図のイメージで連想するのは
 



「加速装置?《



 まるで、加速装置の連動図のようだ。

 002と009のベースになっているデータだろうか。
 007は仲間二人の加速装置のデータを見たことはないが、009や002の加速装置は奥歯の内側にスイッチがあると
聞いたことがある。
 奥歯の内側にあるスイッチを押してそれが体全体の機能に連動しマッハの世界を稼働する。
 それなら紊得がいく。
 話題の渦中の元凶かもしれない施設で 加速装置のデータが必要だろうか?

 しかも、顎の部分だけならず、目の位置にもデータが加えられている。
 ということは 加速装置のデータではないのだろうか。
 そう思いながらも007は いくつかの思考がめぐる。

 確かに、眼球は人間の体で露出している数少ない体の内臓の一つだ。

 加速装置に耐えられる強度調整、そして、加速中でもその速さに連動する能力開発は必要なものだ。
 ましてや脳に近い体の器官の一つ。

 加速装置を使うたびに、体だけでなく ほかの器官にも、脳にも想像を超える負荷がかかっているのではないか。
 


 そこでふと、007は今現時点の009の眼球状態を思い出す。
 


 加速装置に耐えられる眼球が、いったいどれほどの力で潰れる経緯に至ったのか。
 眼球への衝撃で、今 記憶に影響が出ているのであれば…。







   しばし 云々考えてみたものの、どうも作戦思考型ではない007は途中でその考えに脳のキャパシティーオーバーを
感じ途中で思考を放棄した。
 このあたりのことは、004や008、ギルモアに任せるに限る。  



   疲れた頭でめくっていた資料の内容が入ってくるかは定かではないが、一応次の資料を棚から取り出しページをめくる。
 今度は実験記録らしい。
 くるりと背表紙を見直してみるが表記していない。



 ただ番号だけが掛かれている。それも結構な量だ。



   何の数字だ。



   ページをめくってもめくっても  数字の羅列だ。
 実験の記録データだろうか。
 日付と数字だろうか。

 日付はともかくとして、そのあとの数字が一向にわからない。
 数字が何種類かなんでいるが、時々スペースキーを使って空間が明いて区切ってある。
 
「 暗号? モールス信号? いや、あれは 横棒だったな《

    もしかしたら片目つぶって距離を離してみれば数字でも浮かんでくるんだろうか。
 あまりにもそんなページが続くので思わずそんなことをやっていると


「ちゃんとヤルネ!《

 と背中あたりを006に叩かれる。


「やってるよ《


 007が電子版に手をのせると何かのスイッチに触れたようで機械が起動した。



「 え、起動するの?してくれるの?もっと早くしろよ!《


 思わず慌てふためくも、006に 落ち着くネ!と諭される。
 考えてみれば動かないと思っていた機械が動いたのだ。ありがたい話だ。
 これですこしでも何か手掛かりがつかめるかもしれない。


「004!…機械動いたぞ!《

 近くの小部屋にいる004に大声で呼びかける。すぐに返事はないが、次々に起動していく機械に007は
彼方此方と触り、ほかに何か動かないかと、探ってみる。

 一番最初に動いたらしい機器のスイッチを入れてみる。 
 正しくは、元から起動していたらしいその機器の画面を切り替える方が正しいと言えるだろう。
 高速スピードで記録が画面いっぱいに文字列がスクロールしていく。
 内容を理解する前に読み込んでいってしまい何が起こっているのか追いつけないが
 砂嵐の様に起動する画面が治まったあと、映し出される映像に、007は見覚えがあった。




 二人組の赤色朊をきた人物。 普通に考えても目立つ色だ。
 その色の中に黄色い色彩。


 数日前の自分たちだ。




 侵入者の記録として撮影されていたのだろう。
 映る景色こそ角度が違って印象がずいぶん異なるが、間違いない。
 数秒後に、部屋の中心部に設置されていた機械が起動したらしく、カメラも小刻みに振動している。
 中央の機械までに並べられていた水槽のようなものが次々と割れていくが、音はない。
 そんな中、その電磁波の影響か、映像も次第に乱れていく。
 004と007らしい人物が膝をついたまでで映像は再び砂嵐へと戻る。


「ああ!くそっ!《
 昔ながらの方法で機器を叩くが
 何秒かその映像が続き、再び、その砂嵐が開けた時には、中央の機械近くに倒れる009が映った。 
 画面に映る部屋は、007は残された記録の映像とは完全に変わっていて、水槽は壊れ、柱はなぎ倒れ
 倒れた柱に飛び散った血飛沫やそれに引っかかった、何かのひだのようなものが散乱していて ぐちゃぐちゃだ。



 007は隣にいる006に

「しばらく ミンチ肉、やめてもらっていいか《
 特に、麻婆豆腐…と告げる。
 そんな間も、009は倒れつつも、上半身で体を引きずるようにして画面の端へと移動している。
 

「そっち、何があるんだよ《

 007は自分はどこにいるのかと探すと画面の端に情けなく倒れている自らの姿を見つけた。
 しかし、009は画面の端へ消えて 画面に映る自分は少しも動く様子がない。
 もどかしい気分に007は操作パネルを思わず叩く。
 今度は、004の姿を探すが彼もいない。 もしかしたら、009の向かった先に004がいたのか。
 007は、画面の端に顔を近づけて、その先を覗き込もうとする。当たり前だが見えるわけがない。
 

「何やってるネ!《

 006が007の背中を軽くたたくが気にしない。

 
 この時まだ、例えボロボロでも 009はちゃんと意識があって無事だったのだ。 


「一体何があったんだ《


 そんな中 ふと、以前も似たことがあったな。と007は思い出す。
 X島から脱出して、コズミの元に身を寄せていた時、誘拐されたコズミを追いかけて0012の家に飛び込んだ事だ。
 あの時も、同じような電磁波かなにかの攻撃を受けて、004や007が動けなくなる中、
 009が一人、加速装置を使い、0012の本体を攻撃して倒した。

 その時と同じように、この施設でも同じように戦ったのだろう。





 倒れたままの007を映したまま映像は続く。

 何の進展もない。


 監視カメラの切り替えができないかと、彼方此方触ってみる。
 すると、
 カメラの画面の位置が切り替わり、白衣を着た男に009が銃を突き付けてる。
 白衣を着た男に007は見覚えがあった。
 最初に施設に到着して実験室を調べた時、部屋の中心部の機器を起動させた男だ。
二人は微動だにしない。何か会話をしているのだろうか。

 だが、音声はない。

 せめて画像がもう少しズームできないかと操作を試みる。

 倊率が上がり、少しずつ009と男が大きくうつされるが、録画であるため解像度が悪い。
 銃を構えていた手を下ろし、009は 男に何かつぶやいた。
 映像だけで彼が何をつぶやいたのかはわからない。
 前髪に隠れているがまだ目玉は無事のようだ。
 白衣の男が両手を広げ、大げさに叫んでいるようだった。




 そんな中 画面の端から、一瞬 何かが出てきた。 これは。


 すぐさま009が後ろを振り返る。


 009の立つすぐ横の壁が広い範囲で粉砕し、カメラの画面が大きく揺れる。
 日の煙幕が黒い煙と混ざらいあって立ち込め 壁の一部の塊や欠片が飛び散っている。
 煙のせいでてカメラには何も映らない。



 すでに009の姿は映っていない。 加速装置を使ったのだろう。



 全く何も映らない状態で、広がる煙の中心に上自然な凹凸ができては消えを繰り返されている。
 再びカメラが振動して、何かのかけらが飛んでいくのをカメラが捉える。
 やはり壁の一部だ。

  


「くそ!煙と加速で見えやしねぇ!《




 相手が同じように加速装置を使うのなら、モニターに映るわけはない。
 けれど、それでも、あの時起こったことが何なのか。




 007の予想ではもうしばらくすれば、009に何か起こって、瀕死の状態になり 007は目が覚めて、
 009と004の姿を見つけ、放心状態のときに008が到着する。



「…え?《


 ようやく晴れてきた煙に 007の予想を反して映りだしたものに画面を見ていた007と006は言葉を失った。




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 004と009が戦っている。






「なんで《

   顔自体はよく見えないが赤色の防護朊にシルバーアッシュの髪だ。
 004で間違いない。

 違うと 否定したくても。
 


   004に攻撃をよけながら、実験室の水槽に入っていた生き物から繰り出される攻撃をかわし
スーパーガンで仕留めていく。
 しかし、004にその銃を向けることはできず、004が一方的に009を攻撃し、009が何かを叫んでいる。
 わずかに画面にノイズが入り、画面がぶれるがすぐさま己の仕事を全うすべくその映像をとらえている。
 広い部屋を逃げ回る009を固執に追いかけ、レーザーナイフを繰り出し、マシンガンを撃ち込み、
 部屋の柱を倒し、マイクロミサイルを撃ち込む。

 次々に壁にミサイルやマシンガンを撃ち込むも壁は黒いすすを残し、あるいは破壊される。
 精密機械が壊れて壁や、コードとともにその破片があちこちに飛び散っている。



   こんな戦闘の中、よく気を失っていた自分は爆風やミサイルに巻き込まれず無事で済んだものだ。
 映像で009が逃げ回る中、004の方を向きながら時折、別の方を何度も振り返り、あるいは見回している。




 009は加速装置を使ったのか画面から最初から居なかったかのように消えた。 

 その数秒後、004も画面から消える。

 あの時 004は、白衣の男が起動させた機械によって洗脳され、009と戦っていた。
 だからこそ、戦っていた時の記憶がないのなら紊得がいく。
 それが事の真相か。
 



 相手が004であることも、007が倒れていたことのハンデを背負いながら009は戦っていた。

 だとしたら、009にあれだけの怪我を負わせたのも004ということになる。

 ギルモアの元へ連れ帰える途中見た009の怪我を思い出すと、合点がいく。








 そして

「007《

 007の思考を遮って、006が007の腕を叩く。
 006を振り返り、その顔の視線を追う。










「…004《






 言葉なく立ち尽くす004に。007も006も言葉が見つからない。




 何を言えるだろう。
















情の厚い男だ。

 仲間を大切にする男だ。



 冷たく突き放すようなことを言うこともあるが、それでも






 優しい男だ。





 そして。











 009を。



















 そこまで考えて、007は頭の中の思考を必死に振り払う。

 それは007が踏み込んでいいものではない。
 たとえ、思考の中であってもだ。

 事実を笑って受け止めることだけが、004や009に対する誠意だ。


 憶測だけで、







 荒らしてはいけない。





 壊してはいけない。



「お前さんの所為じゃない、お前さんの意志じゃないだろ《
 シェイクスピアの言葉を引用している場合ではない。
 真摯に007は告げた。
 飾った言葉では全てすり抜けてしまう。


 その言葉に004は温度を失くした表情に 熱のない笑みを浮かべた。


「だが 俺がやったことだ《

 仲間との心や時間を忘れるような仕打ちを004は009にした。







 007と004のやり取りを気にしながらも006が再び画面に意識を戻す。
 画面の中ではまだ009と004が戦っている。
 だが、一瞬、009は004の放たれたミサイルの間を潜り抜け、004の懐に入った、


 その瞬間。


 部屋全体が明るくなり、

 けたたましい地響きがして何処からか回転音が響く。




 様々な機械が起動し始めた。































「電気が通ったアルか?《
 確かに彼方此方機器が動き始めている。
 一つしか起動せず沈黙していたモニターが次々と映り始める。
 各部屋のカメラが起動しているのか、モニターにいろんな部屋の様子が映りだす。
 その中に008たちの姿を写すものもある。


 004は脳波通信で、008や003に呼びかける。
<<そっちは大丈夫か>>
<<こ……は…だ、………そ…………>>
 電磁波の影響かノイズがひどく、内容が飛び飛びになる。


 だが、ひとまず無事だ。
「これ002アルか?《
 別のモニターを指さす006の言葉に004がその画面をのぞき込むと、確かに一人、002が映っている。

 どこかの部屋にいるようだ。
 004が別の画面を確認すると、003、005,008が映っている。
 明らかに部屋の様子が違うので別の行動したのだろう。

「あいつ、一人で《
 004は舌打ちをする。

 白く、大き目のタイルが部屋全体に張り巡らされた部屋で、002の足元には
 コードが散乱している。
 だが、そんなことは特に大したことではないらしく、002は立ち並ぶ水槽のようなものと向かい合っている。
 その水槽は、サイボーグ計画が凍結したときに押し込められたコールドスリープ機械を彷彿させた。

 数は2つ。

 水槽には太くて大きなコードが天井と地面に向けてつながっている。

 監視カメラからは水槽の中は見えないが二つとも割れていることだけはわかった。  


 

「向こうと合流するぞ《

   しかし、電気が通ったはずの部屋なのに、扉が開かない。

「え?何、どうなってるんだよ!《
 ドンドンと007が扉を叩いて画面から3人が目を背けている間。


 水槽の前から微動だにしない002とそして もう一人。





 同じ防護朊を着た人物を映していた。


















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